序盤はロングボールの展開に慣れるかがカギ
JFAアカデミー福島は70分で決着をつけられなかった。
辛くもPKで優勝を決め、連覇を達成する結果となったが、あらためて育成という枠組みの中で「自分たちがどんな取り組みをすべきか」を問われる試合内容だったのではないかと思う。それほど初めて決勝の舞台で戦った『 マイナビ仙台レディースユース 』のチームとしての完成度とそれを実践できる選手のスキルは高かった。
肉弾戦、ボールを扱う技術、判断力、そして、何より勝ちに行く気持ち。どれを取っても何一つ負ける要素は見当たらなかったし、互角以上の戦いをしていた。まずは持てる力を出し尽くした両チーム、そして、ピッチの外から選手を支え続けたスタッフに感謝を述べたい。
その上で、大会最後のレポートを書き進めたいと思う。
戦前では、多くの人が「JFAアカデミー福島が70分で勝負をつける」ことを予想していたのではないだろうか。しかし、私の予想は条件付きで違っていた。その条件とは、マイナビ仙台レディースユースが序盤に相手のロングボールによる展開に慣れることだった。そうすれば互角の試合になるのではないかとイメージしていた。
その理由は、女子U-18でJFAアカデミー福島(以下、JFA福島)のようにあれだけ正確なロングキックでサイドチェンジを行ったり、相手の裏を狙ったりできるチームはそういないからだ。この点で言えば、唯一無二のチームである。
これまで出会った経験のない仕掛けに対し、どのくらいの時間で慣れるのか、また失点をしないのかは、マイナビ仙台レディースユース(以下、仙台レディース)にとってこの試合を互角に戦う上で重要なポイントだった。
そして予想通り、JFA福島はいつも通り最終ラインからパスをつなぎながら揺さぶりをかけ、チャンスと判断したら大きなロングボールを逆サイドに、守備の背後に狙って放り込んできた。最初はチームとしてどうするかを少し戸惑っていた仙台レディース。ただ時間の経過とともにチーム全体のポジション修正が素早く対応できるようになると、個々の選手が各状況によって自身の立ち位置や対応を微調整することもできるようになった。それによりJFA福島はロングボールを使った仕掛けに効果のないことを悟り、相手を崩す大きな手段をなくしてしまった。
この段階から、この仕掛けによって自陣に引くことを余儀なくされていた仙台レディースの守備ラインは10~15mほど前に高くなる。そうすると、一気に戦況が変わり始めた。徐々に選手同士の距離感が近くなり、いつも通りチーム全体のローテーション移動による前進ができるようになると、JFA福島はボールの奪いどころの的を絞れなくなった。
これまでは切り替え時にボールの出どころへの素早いプレスをかけて簡単に奪い返したり、攻撃を遅らせたりして主導権を握れていたが、それがままならなくなる。すると、まずは帰陣して基本ポジションをとることが最優先になり、攻撃的な守備ができなくなった。
この事実は大きかった。
こうなると仙台レディースは自分たちのペースでボールを回しながら攻撃を組み立てられるようになる。自分たちの時間を作れるようになった仙台レディースの選手たちは少しずつ落ち着きを取り戻し、これまで通りのプレーを実践できるようになった。
仙台は中盤の要のキャプテンが負傷交代
ただ前半の折り返しあたり、仙台レディースにアクシデントが起こった。
それは中盤の要として攻守の中心を担ってきたキャプテンが相手との接触により一時ピッチの外に退場したのだ。ここまで厳しいときに体を張って中央でパスを引き出して時間を作っていただけに、その穴はチームに大きな打撃を与えることになった。
退場している間、一時的にポジション変更などを行い、中盤の穴を埋めた仙台レディースの選手たちは全員が体を張り、素早くスライドして隙を作らず、JFA福島の攻撃を凌ぎ続けた。数分間だったが、1人少ない状況を乗り切ったことが、逆にチーム一人ひとりに自信を植え付けた。
微妙に足を引きずりながら再びピッチに戻ってきたキャプテンはポジションを少し高めにとり、相手からのプレッシャーを回避してプレーしているようだった。ベンチ横では交代選手がアップを始めていたが、小川翔平監督は様子を見ていた。
きっと替えの効かない選手なこともあるが、彼女には『 試合を続ける 』という気迫が全身から発せられていたからだ。出場中は痛さを感じさせず、相手を背負うプレーがあっても躊躇することなく、すばらしい技術で対応していた。
結果的に15分くらいプレーして途中交代したが、彼女の勝利への執念はチーム全体に宿っていた。サイドラインの外に歩くキャプテンは足を引きずっていたことを見ると、相当な痛みがあったに違いない。
交代して入ってきた選手は中盤でボールを受けて見事にチームの起点を作っていた。前半は主導権争いをする形で数こそ少ないが、どちらもチャンスを作りピンチを防ぐ攻防を行なっていた。雨足が強くなりそうな雰囲気が漂い、後半はより主導権争いが激化しそうな気配があった。
前半は0対0のまま終了。準決勝のレポートでも指摘したが、JFA福島はダブルボランチのボールの引き出しとゲームメイクがポイントになるのは明らかだった。
9月に高校インターハイの決勝を競う2チームと激突
後半はスタートから仙台レディースの守備を仕掛ける位置は高くなっていた。「やれる」という自信と左右の揺さぶりに慣れたのが主な要因にあった。逆手に捉えると、JFA福島の攻撃が単調だったという証でもある。
他のチームなら守備にズレが生まれるところも、仙台レディースの守備は隙を作ることなく、対応してくる。JFA福島にとって同世代のチームでこのレベルで守れる相手に出会うことも非常に珍しかったのではないかと思う。
率直に仙台レディースの守備の穴を作る手段を失っていた。
・中盤が前を向くゲームの組み立て
・ボランチのボールの引き出し方
今大会のレポートで、これまでこの2つによる相手守備の穴の作り方と突き方について何度か触れてきたが、現段階で今日起用されたJFA福島のダブルボランチにはこのプレーを実践することが難しそうだった。その要因は、自分の周辺にいる敵と味方の関係を的確に認知し、そこから計算してタイミングよく守備ラインからボールを引き出すことに本人がこだわっていないようだったからだ。
このプレーはそもそもボランチの選手にとって当たり前にトライし続けなければいけないもので、いかに中盤の自分を通すことが相手を困らせることになるかを理解していれば強くこだわりを持つところである。少し厳しいかもしれないが、パスを回す歯車になることが自分の役割だと勘違いしているように感じた。
特にプレッシャーが大きい環境下に陥ったときの二人のプレーに目を向けるとパスを回すことが目的になっている。
この状況に追い込んでいるのは間違いなく、仙台レディースがチームとして実践する守備戦術であり、一人ひとりが行う守備の判断力である。後方で横方向にパスを回し続けるか、ロングボールを蹴り出すかしか主な手段がなくなっていたJFA福島のゲームメイクを見ていると、より一層ボランチのボールを引き出すスキルが目についた。
もちろん全くできなかったわけではなく、ボランチの一枚であるキャプテンが上がり目の位置をとって少し上下関係をとったりしたときはチャンスが作れていた。要は、ダブルボランチが一人ではなく、『 二人で守備のズレを作り出す 』工夫を自発的に仕掛けられていればもっと違った展開になっただろう。
サッカーは11人で状況を解決するスポーツでもある。やはり基本的にボランチが10~15mくらいの距離で相手の背後かつフリーでボールを受け、前を向く作業ができるかはチームのサッカーの質を大きく左右する。
その点、チーム全体の立ち位置が攻守に整理され、さまざま状況によってどう動いてボールを動かすのかを訓練されていた仙台レディースは、JFA福島のプレッシャーを上手に交わして前を向いて仕掛けられていた。
最後のシュートを打つ前段階でJFA福島のセンターバックの壁に何度も阻まれていたが、危険な場面は相手と同等に作れていたし、むしろパスを活用しながら前進するプレーを比較すればJFA福島より上だった。それほど互角の戦いをしていたからこそ70分で決着がつかなかったのだ。
仙台レディースは残念ながらPKによる敗戦で初優勝を勝ち取ることはできなかったが、力を出し切った実感はあっただろうし、全国の強豪相手でも十分通用する自信を得ただろう。優勝を決めた直後のJFA福島の選手たちの大喜びする姿から、彼女たちにとっても苦しい試合だったことがわかる。
この決勝で熱い戦いを披露してくれた『JFAアカデミー福島』と『マイナビ仙台レディースユース』の2チームは、9月18日(土)・19日(祝)に開催される予定の高校インターハイの優勝・準優勝チームと女子U-18日本一を決める「JFA U-18女子サッカーファイナルズ2021」に参加することが決定した。
クラブの代表として、この大会の決勝で再び激突できるように練習に励んでほしい。
▼参考=http://www.jfa.jp/match/u18womensfinals_2021/about.html
8月中に、マイナビ仙台レディースユースの小川翔平監督のインタビュー記事をアップ予定だ。ぜひチェックしてもらいたい。
写真=佐藤博之
文責=木之下潤